校長日記5
今までの 「校長日記」
かのんちゃん、がんばる
 正平辰男
 平成27年10月10日11日、台風襲来のため延期していた第6班15名の体験合宿が行われた。この班に小学校2年生の「古賀かのん」ちゃんが参加していた。この日は朝の職員打合せで、午前中の体験活動は竹炭用の孟宗竹を切って窯に詰める作業をすることにしていた。ただし、この予定は非常勤職員の祝原さんが見えた時点でセメント塗りに変更することとしていた。タイミングよく祝原さんが出勤してきたので、竹切り・窯詰めは午後にまわしてセメン塗りの作業にかかった。
 通常の生活では子どもがセメントをこねたり塗ったりする機会はほとんど無いので、生活体験学校でセメント塗りの作業が必要な時は子どもたちになるべく体験させることにしている。今日の作業は、砂とバラスの保管場所を作ることである。昨年、新しい建屋を作ったが、その時は、かなりのセメント塗りが必要だった。その時も改めて砂やバラスを購入したのだが、当然ながら、毎回いくらかの残りが出る。その残りの砂やバラスを次のセメント塗りの時に使いたいのだが、時間が空くと砂もバラスも人の足で踏み散らかされて、また改めて購入することになる。その繰り返しを防ぎたいので、旧厩舎の端っこにブロックをついて砂とバラスの保管場所を設けようというのである。側面のブロックをつく作業は祝原さんにやってもらって、底面の平らな部分の塗りを子どもにやってもらう。小型のミキサーに砂とセメントを入れ、水を入れて回転させる。頃合いを見て練り具合を確かめ、ミキサーのハンドルを回してドラムを傾けると練りあがったコンクリートが出てくる。子どもたちは祝原さんに分けてもらったセメントを、小手を使って平らに伸ばしていく。このくだりが子どもには楽しいらしく競ってやりたがる。場面は広くないので代わる代わる小手を回して使うのだが、先に初めた子どもが譲ろうとしないと小競り合いが起こる。私が目線を上げて周囲を見回すと生活棟の東端にポツンと、「かのんちゃん」が座っているのが目についた。私が声をかけると、「かのんちゃん」は私についてきてセメント塗りの場面に登場した。先に始めている子どもに小手を貸してくれるように頼むと譲ってくれた。やおら、セメント塗りを始めた「かのんちゃん」だが、他の子どもと同じように小手を使ってセメントを伸ばす作業の面白さが分かった様子である。短い時間だったが、みんなと同じことをする楽しさが味わえた。セメント塗りが終わると、作業は竹炭の取り出しに移った。前回の合宿時に竹炭窯に火を入れたうえで、中の竹が焼けた頃に火を止めてある。既に窯の中に竹炭はできている。それを取り出す作業である。窯の蓋を開いて竹炭を取り出して隣の炭小屋にしまう仕事である。
 午後は、サツマイモ掘りをした。エビジョウケに2杯分はゆうにあった。前の週に一度掘って食べてみたのだが、「紅あずま」という種類の赤いサツマイモは甘く美味しかった。インゲン豆のツルは、たくさん実をつけていたので、これも収穫して夕食の食材にした。レタスは今を盛りに葉を伸ばしていて、食材のメインといっても良い。里芋も掘るには少し早いかと思ったが、掘ってみたら、イモが少し小さかっただけで食材としては十分だった。終わりに、ブロッコリーに追肥をした。「かのんちゃん」もサツマイモ・紅あずまを掘ったりして、みんなと収穫を楽しんだ。
 二日目は竹炭作りの作業の一部である竹割りと節落しをした。太い孟宗竹を道具を使って四つに割る。竹に節が残っていると、窯に詰める時にその節が邪魔して隙間が多くなる。竹を密着させて窯に詰めるために節を金槌で叩き落として欠いでしまう。金槌といってもくぎ打ち用の金槌ではなく、コンクリートなどを「はつる」時に使う、先が平たくなった特殊なものである。私は、その作業を横目で見ながら磁石を使って焼き灰に混ざった古釘を集めていた。といっても、何の作業なのか分かり難いのだが、説明を加えよう。すなわち、先般の台風で折れた自然木に加えて吹っ飛んだ壁材の板切れなどを少量焼いた。その灰の中に、板を止めていたクギやホッチキス針が混じっている。この金具を除く作業である。さらに、「ふるい」にかけて細かい灰だけにして畑に肥料として入れようというのである。竹割りと節落しは力加減の難しい、やや難度の高い作業である。気をつけないと危ない場面もある。「かのんちゃん」は芝生に腰を下ろして遠目に作業を眺めていた。その「かのんちゃん」も、諏訪康夫副校長に手伝ってもらって竹割りを始めた。諏訪副校長は10月1日付けで着任したばかりの新任である。難しい作業なのだが、「かのんちゃん」は何本も孟宗竹を割った。やがて、それが終わると、私がやっている磁石を使った古釘探しに興味をもった様子である。黒い焼き灰と土にまみれた古釘は同じような色で見つけにくい。その灰の上を磁石を縛りつけた道具でなぞっていくと、そこに金具があれば鉄だからピタッと磁石にくっついてくる。そのくっつき加減が面白くなって、「かのんちゃん」は次第に集中していった。「かのんちゃん」は何をしているのかと作業をのぞきにきた2~3人の子どもも、面白そうな作業に、「私もやらせて」とばかり磁石を借りて古釘探しを始めた。磁石を縛りつけた道具は他の子どもの手に渡った。その間に、「かのんちゃん」は、ふるいを使って細かい灰だけを集めて畑に入れる作業を始めた。「ふるい」を見た瞬間、「おばあちゃんちで見た」と言う。ふるいは、「かのんちゃん」には既知の道具であったようである。ふるいを使って細かい灰だけを集める作業は、「かのんちゃん」が取り組んだ作業のうちで一番長い時間続いた作業である。これだけで、「かのんちゃん」の二日間の作業は十分な質量だったのだが、昼前に近いころ私に、「黒い毛のヤギが声を出して騒いでいる」と「かのんちゃん」が言ってきた。この日は、午前中から様々な作業が間断なく続いていて、ヤギ達を外に出してつないでくれる人がいなかった。勿論、雨が降る日などは一日中ヤギは小屋の中だが、みんなが忙しい日などはエサを与えられて小屋の中ということもないわけではない。黒い毛のヤギは雄である。人間に頭突きをすることもあるので注意して扱わなければならない。ヤギは全部で3頭飼っている。「かのんちゃん」と連れだって小屋をのぞくと、ヤギたちは朝もらったエサが切れていて、エサを催促しているようだ。小屋には掘ったサツマイモのツルがリヤカーに満載してあった。私は「かのんちゃん」にサツマイモのツルをヤギに与えるように言った。サツマイモの茎と葉を一つ一つ、ちぎってはエサ入れに運ぶ「かのんちゃん」に、まとめてエサ入れに突っ込みなさいと私は言った。言われてイモヅルを小さめ目だが一抱えにしてエサ入れに持って行く「かのんちゃん」。次第に要領が良くなっていく。程なく、3頭とも十分な量のイモヅルをもらって懸命に食べ始めると鳴き声はしなくなった。その様子を見た「かのんちゃん」も安心した様子だった。一日目の朝、生活棟の東端に一人座っている「かのんちゃん」を見た時は、集団での作業に参加できるか、作業を楽しんでやれるかと心配した私だったが、どうやら余計な心配だったようである。意欲的に作業に取り組んだ「かのんちゃん」の体験合宿だった。「かのんちゃん」は2日間を楽しみながらがんばった。           
(飯塚市庄内生活体験学校々長、 平成27年10月12日)