校長日記39
戻ってきたニホンミツバチ
 動画をご覧ください。
 初めてニホンミツバチの採蜜をしたのは8月9日だった。採蜜の後の手当として、砂糖水を巣箱の前に置いた。巣箱一段の蜜を取ってしまったので、ミツバチの餌の補給のためである。冬場に花が絶えて餌が不足する時期にも同じことをするらしい。砂糖水のボトルは小さいけれども、ボトルの中身は1日、2日で空になった。二度三度と砂糖水を補給した。やり過ぎると蜂蜜ではなく砂糖水が巣箱にたまることになるので、補給は、ほどほどにしないといけないらしい。
 8月23日は、宿泊体験ができなくなった代わりに始めた生活塾の3班が生活体験学校に入ってきた。日帰り、一日のみの体験学習である。この日、8月9日の採蜜場面と蜜の手しぼり場面の動画を見せた。ニホンミツバチの生態動画学習という場面である。私にも巣箱について説明してほしいといわれて、子どもの前に空の巣箱を持ち出して重箱式の簡単な造りの巣箱について話した。子どもたちは動画を見ている時も巣箱を見ている時も、目を丸くして聞いている。よほど興味をそそられる模様である。いっそのこと、採蜜の現場に立ち会わせてやりたかったのだが、何せ職員自身も初めてのことで、もし子どもがハチに刺されでもしたらという心配があって立ち会わせる決心がつかなかった。学習の最後に少量の蜂蜜を提供して試食してもらった。喜ばれたことは言うまでもないが、できることならもう少し蜜の量を多くしてやりたかった。来年はハチの捕獲を成功させて、巣箱を2箱、3箱と増やしたいものである。9月になるとニホンミツバチをスズメバチが襲う、という話を聞いていた。
 9月3日、台風の影響かミツバチが多数外に出ていた、見上げるとスズメバチが1匹舞うのが目にはいった。スズメバチ撃退用のジェットを噴射するも、台風の前触れの風が強くて届かない。次の日、職員の河中さんがスズメバチを虫取り網で数匹捕獲したという。春、多くのスズメバチを捕獲したハチの激取り器(黒い捕獲器の商品名)を吊るしたら、5〜6匹のスズメバチが入っていた。9月5日、前の日の分も入れてスズメバチ18匹を黒い捕獲器から取り出した。大人の小指ほどもあろうかというスズメバチである。写真撮影をした。その後、更に2匹のスズメバチが入っていた。春に使った捕獲器の効果は絶大である。9月6日、捕獲器に入ったスズメバチ13匹を取り出した。再び、写真撮影をした。この二日間で合計31匹のスズメバチを捕獲した。9月中に合計8回、191匹のスズメバチを捕獲した。10月は計10回289匹のスズメバチを捕獲した。9・10月で捕獲した数は480匹に達した。ハチ取り器の中で死んでいるスズメバチを眺めながら、自然界の命がけのやりとりを実感した。9月5日は、台風10号接近のニュースが頻繁に流れた。河中さんが道路沿線の案内看板撤去に行くやら、津山さんがゴミのペール等飛びそうな物を倉庫などに収納するやら、忙しかった。ガラス窓にクロステープを張ったりもした。9月7日、台風の余波が吹き荒れ、収まる気配もなかったけれど、午前9時過ぎに生活体験学校に着いた。5段重ねの巣箱が吹き倒されていないか心配しながら来てみると巣箱は無事だった。少し安心した。河中さんの丁寧な保護策が効果を発揮したものとみえた。9月下旬になって、職員の間で巣箱の網目を少し広いものにしてあげないと、出入りするミツバチが窮屈なのではないかという意見が出た。そこで、巣箱の一番下の板に取り付けた金網の目を5ミリから8ミリのものに取り換え、入れ替えた。その時、一番下の5段目の箱に一片の巣房が落ちているのを発見した。見た瞬間には5段目まで蜜が溜まり始めているかと錯覚したが、後で落ち着いて考えてみれば、5段目まで蜜が溜まるなどということはあるはずがない。そうだったら良いなあという思い込みが過ぎると、変な錯覚に陥ることになる。油断禁物というけれど、油断も予断も禁物である。これも職員の意見だったが、蜂蜜は一段目、二段目と溜まっているような音がすると、2,3の職員が言う。村瀬先生に伝えてみると、採蜜してみようということになった。前回の採蜜から約50日ぶりの採蜜である。2日前の25日に村瀬先生のトマトハウスまで、蜜の詰まった巣箱をいれる箱と蜜の漉し布と送風機を借りにいった。9月27日は日帰り体験活動の「体験塾6班」の活動日にあたる。子どもたちは安全を期してヴェランダから遠目に見学させて、蜜を絞る場面を観察させることにした。前回8月9日に実施した手順をなぞるようにして採蜜に入った。まずはハチに巣箱の上部から下部への移動を促すところから始める。天板を工具で軽く叩いて下の段へ移動を促す。板を外して送風機で風を当てて、更に下の段へ移動を促す。後で分かったことだが、風を当てる時間を長く伸ばした方がよかった。もっと時間をかけて、ゆっくりとハチを下の箱へ誘導すべきだった。蜜を絞りながら多くのハチが三つに混じって残っているのに気付いた。少なからずハチを死なせてしまったかもしれない。絞った蜜の糖度は職員の矢野さんの測定によれば76.8度だった。蜜の重さは秤にかけてみたら2.8キロだった。村瀬先生に報告したら、この時期の、それも二度目の採蜜としては、まあまあの成績だとか。採蜜は第一回目が8月9日、第二回目が9月27日で今年は終わった。
 初めての取り組みにしては、2度も蜂蜜採取に成功したのだから幸運だったといえるかもしれない。10月下旬以降は巣箱でニホンミツバチの姿をとんと見かけなくなった。巣箱を空にして逃げ出したのかと落胆していたら、村瀬先生によれば珍しいことではなく、心配するには及ばないということだった。来春こそは巣箱の数を増やしたいものだと会話しながら年を越した。3月になって巣箱のそばの桜が開花し始めた。その3月19日、突然ニホンミツバチの大群が元の巣箱に戻ってきた。最初は、何が起こったのか分からなかったが、巣箱にニホンミツバチが大挙して入ったことは確かなことだった。午後1時20分過ぎに北西の方角から去年の巣箱を目がけてニホンミツバチの大群がやってきた。またたくまに巣箱はニホンミツバチで覆いつくされた。やがて、5分10分と経つうちにニホンミツバチのほとんどが巣箱の中に入っていった。職員の津山さんがケイタイで動画撮影した。電話で村瀬先生に模様を報告したところ、「キンリョウヘンの誘引効果*が無い状態で元の巣箱にニホンミツバチが入ったのであれば、去年いたニホンミツバチが戻ってきたものと考えられる。」とのことだった。去年は敷地の南端に3つの巣箱を据えて、そのうちの一つにミツバチが入ったのだが、今年は4つの巣箱を据えている。果たして去年以上のミツバチが巣箱に入ってくれるかどうか、ニホンミツバチのシーズンは正に始まったばかりである。
 *ミツバチの分蜂が始まると蘭の一種であるキンリョウヘンの鉢を巣箱の巣門近くに置く。キンリョウヘンの花の香に誘われてミツバチが巣箱に入るという仕掛けである。
  (令和3年3月20日)