館長日記41  
生活体験学校の将来像を模索する
 NPOドングリが生活体験学校の指定管理者になって6年が過ぎて7年目に入った。指定管理者になったのは平成272015)年4月のことだった。その時、私は純真短期大学食物栄養科に籍を置いていて、毎日の講義と片道2時間を超す通勤に余裕のない日常を過ごしていた。生活体験学校の在り方に思いを馳せれば、取り組みたいことは山ほどあるが、大学の教員として月曜日から金曜日までの役割は日々切れ目なく迫ってくる。とはいえ、指定管理者としての責任は当然のことに負わねばならない。苦しい2年間だった。平成292017)年3月、純真短期大学食物栄養学科を退職した。指折り数えれば、福田学園・純真学園に通算14年間お世話になった。努力の限りを尽くしたつもりだったが、いかんせん浅学菲才の身、周囲に迷惑のかけ通しの年月だった。今もって講義を聞いてくれた学生と支援してくださった全ての先生方に申し訳なかったという思いと感謝の念が消えることはない。同年4月からは「出仕に及ばず」の身になったので、生活体験学校の専任館長となった。専任といっても他に仕事を持っていないという意味合いの「専任」である。常勤職員としての待遇を受ける専任職員などでは勿論ない。そもそも、生活体験学校は小学生に自炊生活をさせながら、67日の期間を学校に通いながら共同生活をくぐらせるために開設された施設である。学校に通うのは徒歩通学である。時を経て、2006(平成18)年3月、飯塚市と嘉穂郡4町が合併した。合併の時、当時の小学校の総数が20校だった。庄内小学校を除く19校の児童は、生活体験学校から自校へ徒歩通学することはできない。合併後の体験合宿事業について、さまざまな協議はしたが、結果として(金・土・日の)23日の合宿事業が19校の児童のためのプログラムと決まった。元祖であるところの通学合宿は、「67日」と「徒歩通学」と「自炊による共同生活」をキーワードとする合宿事業である。片や19校対象の23日の短期プログラムは、通学合宿とは空気が違う。67日の通学合宿は一週間の長丁場を共に暮らすという空気の中でゆっくりした雰囲気で始まっていく。終わった時の達成感も、23日と67日では大きく違う。この二つの異なる合宿事業を生活体験学校の基幹事業として並べて説明するのは難しい。説明は難しいのだが、二つの事業の応募者が減ることはないし、参加者には好評である。合併前もそうだったが、生活体験学校を支えている一番大きな力は、子どもが参加してくれるという子どもの力である。何をいっても参加する子どもがいて、喜んでくれるという大前提がなければ生活体験学校は成り立たない。そのうえで、これからの生活体験学校に何を付け足していくのか、生活体験学校にどんな魅力を持たせていくのかという課題が何年経ってもついて回る。まず多くの人が気づくのは、平日昼間の施設利用の少なさである。通学合宿専用施設だから平日昼間の利用はありません、では済まされないだろう。長い年月が過ぎたのである。探し求めて出てくる接点は、幼稚園、保育園、こども園の幼児が生活体験活動をキーワードに利用してくれるような生活体験学校に変身する手立てである。その場合に、もともと小学生の利用を前提に開設された施設だから、現状そのままでは幼児の利用に適さない場面があるという問題もある。現状を変更する試みには常につきまとう事柄であり、それが面倒というなら現状維持にとどまるしかない。生活体験学校の将来の在り方を考えれば、現状維持にとどまるわけにはいかない。

生活体験活動支援事業
 2017(平成29)年6月、私立の保育園、幼稚園・こども園の園長会議に出向いて、今後幼児の野外における生活体験活動支援に取り組みますという態度表明をした。それ以後、生活体験学校で準備できる活動は全て園児を支援して取り組んだ。例えば、サツマイモ掘り、石焼きイモ作り、タマネギ収穫、ジャガイモ掘り、落花生掘り、里イモの皮むき、ピザ焼き、そうめん流し(ヒノキ作り)、落ち葉プール、ヤギ・ウサギの餌やり等々である。園児の笑顔と園の職員の感謝の言葉に励まされて活動支援を続けた結果、令和2年度は年間に園児1300名、引率職員270名を超える参加者をみるまでになった。わずか4年でこれだけの広がりをみたのにはもう一つの要因があった。それは飯塚市教育委員会が園と生活体験学校を往復するバス代を予算措置してくれたことだった。令和2年度は、園と生活体験学校を貸し切りバスが6回往復した。この中には、バス利用がきっかけで初めて生活体験学校を訪れたという園もあった。園にとっても生活体験学校にとっても、実にありがたい行政の支援であった。
保育者体験講座
 この広がりを切り口にして、令和2年度開始したのが保育者体験講座であった。保育園、幼稚園、こども園の職員が個人として参加する、それも希望すれば子連れでも参加できる生活体験講座である。狙いは園児が参加する体験活動の前後にいかなる活動が接続しているかを参加者に体験してもらうことにある。例えば、サツマイモの苗を植える活動の前段にどんな準備がされているかを、園の職員が知らない、あるいはしたことが全くないというのでは、園児に伝える内容の肝心なところを失うことになる。時間の制約や危険回避のため園児に直接体験させることはできないけれども、引率する園の職員はサツマイモの苗を植える活動の前段にどんな準備作業が行われたかを正確に知っている、そのことが体験活動の前提であるとわれわれ生活体験学校の職員は考えている。このことを分かってもらうための講座である。また、子連れ参加の利点は、我が子の動きや表情を観察しながら活動すれば、自園にその活動を導入することができるかの推測がつくし、導入の際の課題も推測できる。令和3年度は5名の保育者と4名の子どもの参加を得て実動している。この講座には3名の研究者に参加してもらって、その日の振り返りを共にしてもらっている。3名の研究者の所属は、久留米信愛短期大学、九州女子短期大学、西南女学院大学短期大学部である。研究者にとっても貴重な体験の機会提供になっている。
生活体験推進モデル園支援事業
  保育者体験講座についで令和4年度に開始したい事業が、生活体験推進モデル園支援事業である。事業のねらいは、現在の生活体験活動は、年1回の単発の活動が大半である。これを年間2回以上の活動に増やし、単発でない継続的でかつ効果的な取り組みのモデルを創りたいと思っている。活動の類型としては、A.年間2〜3回の活動, B.年間4〜6回の活動,C.年間7〜10回の活動といった型が想定できる。経費の負担は、種子や苗を業者から購入して行う活動の経費はモデル園の負担に、生活体験学校で調達できるものは無料とする。モデル園の協力事項としては、この事業の経過や成果を学会等で発表することがあるので、園の職員対象にアンケートをとること、インタービューをすること、幼児や職員の写真を撮影し発表に際して使用すること等をあらかじめ了解していただきたい。また、この事業の園の担当者を決めておいていただきたい。モデル園の利点として、生活体験学校利用の日程が競合する場合は、モデル園の利用を優先する。モデル園に幼児の送迎バスがない場合は、3回に限り貸切バスを生活体験学校の予算で配車する。果樹の収穫体験は、モデル園の利用を優先する等がある。昨年から、敷地の南側法面にクリ苗20本を植えた。また、敷地の南にミカン8本を植えている。クリ拾いは来年から可能である。今年収穫したクリだけでも1500個はあった(過去に植えたクリの木が2本ある)。収穫最適の時期にクリ拾いを無料で許可する。応募モデル園の数(期待数)は送迎車を有する施設1園、送迎車を有しない施設(または少定員送迎車のみの施設)1園、合わせて2園程度の応募を期待している。この3つの事業の基底になる事業は数多い単発プログラムである。例えば、年に1回だけ生活体験学校にやってくるサツマイモ掘りであっても、それは貴重な生活体験であって1回だけでは意味が薄いなどとは毛頭考えていない。1回1回の積み重ねにこそ生活体験の原点がある。終わりに、上に述べた3つの事業が一体化した形で展開できれば、次なる生活体験学校の輪郭が見えてくるのではないかと密かに期待している。果たして輪郭が見えるところまでたどり着けるであろうか。関係者の更なるご指導ご鞭撻をお願い申し上げる次第である。
令和31011