校長日記23
合宿したら子どもは変わるか?
 合宿したら子どもは変わるか?という問いは、通学合宿を企画した30年前から受けてきた。私の答えは、「変わらない」である。それだと、やる意味がないではないかということになるが、本当に何も変わらなければ合宿事業が長く続くはずはない。では、合宿の効果はというと、子どもが変わる「きっかけ」を提供しているから、「きっかけ」を体験した子どもが合宿後にさまざまな変化を示すようになる、その部分が支持されて合宿事業が継続しているのだろうと私は考えている。小学生が親と離れて一泊二日を過ごすというだけでも、冒険であると言ってしまえば大げさに聞こえるかもしれないが、参加している本人にしてみれば勇気のいる決断だろう

 
。庄内小学校の子どもともなると、生活体験学校開設以来、六泊七日の合宿を続けていて、今現在も六泊七日の日程で通学合宿をしている。一泊二日の合宿体験しか知らない子どもに六泊七日の合宿を勧めてみれば、中にはためらう子どもも出るだろう。合宿日程の長い短かいは、子どもに長短に応じた特別の負荷をかけることになる。それはやってみないと分からない負荷である。合宿の効果は、何をおいても親と離れて暮らすという事実から生まれる。そのうえにというか、更にというか、市内20校の子どもが無作為に一つの班に組み込まれて寝食を共にするのだから、これまた小学生にしてみれば生活体験学校の合宿でなければできない稀有の体験といえよう。小学生のころに他校の子どもと一緒に寝泊まりするなどという体験の機会は、そう滅多にあるものではない。そして、合宿生活の内容がまた普通の生活とは違っている。合宿の期間中に食べる野菜はほぼ全量生活体験学校の畑で生産している。子どもたちが持参する参加費の中から野菜を購入することは無いといってもよいくらいである。それほどに畑の野菜生産活動は綿密に計画、実行されている。自分たちが食べる野菜を、「畑に行って取ってきなさい」と普通のことのように指示が出る。野菜の生産体験をほとんどしたことがない子どもは、野菜を収穫する仕方も分からないし、人数に見合う分量も分からない。分からないことだらけの生活ではあるけれども、長いこと続いている合宿プログラムだから、同じ班の中に必ず経験者がいる。子ども同士の教え合いと大人の職員の助言と指導があってなんとか進んでいく。燃料は、ご飯を炊くのも薪、風呂を沸かすのも薪とくれば全く勝手が違ってくる。厳冬期の風呂当番は4時間以上、風呂釜の前に陣取って焚き続ける。否が応でも仲間との協力なしには生活できない生活体験学校である。子ども達に利便安楽の対極とも言える暮らしを迫るための工夫が至る所に仕掛けてある生活体験学校である。就寝時刻を過ぎて、ほどなく寝息が聞こえてくれば、昼間の子どもの労働の負荷が適切であったという証明である。合宿の初めの挨拶で、私から保護者に毎度お願いすることは、小学校6年生までに家事万般の訓練を終わらせる意気込みで、子どもに家事分担の負荷をかけて欲しいということである。子ども達にはお母さんに助けてもらうのではなく、君たちがお母さんを助けてあげることができる家事能力を身につけて欲しいと要求する。料理研究家の坂本廣子先生は、「子どもは台所の前で自立する」と書いておられる。「子どもが満一歳になったら本物の包丁を持たせましょう」とも書いておられる。思春期に入る前までに家事能力を身につけておかないと、思春期に入ってからでは指導の効果をあげにくい。中学生になれば勉強の仕方が変わり、部活が始まり、高校受験も目前の課題として迫ってくる。家庭でできる生活体験は、小学生の達成課題の中でも、その最たるものである。とはいえ、合宿が終わった後はそれぞれの家庭生活に戻ってしまうわけだから、それから先のことは家庭の数だけ違いがある。ちっとも効果がなかったという場合もあるだろうし、3日もすれば元の木阿弥という場合もあるだろう。生活体験学校にできることは、合宿を通して子どもに変わる「きっかけ」を提供するだけ、初めに書いた通りである。それはそうだとしても、せめてその後の変化を少しだけでも促したいと合宿の終わりに、その後の変化をハガキに書いて返信して欲しいとお願いしてある。その返信のいくつかを紹介しよう。ハガキには3項目書くようになっている。1.家でやるときめたこと、◎〇△をつける 2.やってみて気づいたこと・思ったこと 3.保護者の皆様へ:感想を一言、お願いします。という具合である。第17班(2月17〜18日)6年木村蓮千子(かのこ)さんの返信である。「やるときめたこと」は、お風呂沸かしと掃除、◎がついているから、自分から進んでしたということである。「やってみて気づいたこと・思ったこと」は、ちゃんと力を入れてしないとあかがとれない。タイマーをかけてしないと水があふれてしまう。「保護者の感想」は、長女、次女、三女まで、本当にお世話になりました。お蔭様で3人共家事をよく手伝ってくれています。多分、体験学校に行っていなければお茶わん洗いや洗濯もさせていなかったと思います。ありがとうございました。と結んであったが、生活体験学校の合宿は、3人の娘さんが自分から変わろうとする「きっかけ」を提供したに過ぎない。成果は「きっかけ」を活かして親子が家庭で生み出したものである。紹介し切れないほどの返信をいただいているので、続きは次回にしたい。
(飯塚市庄内生活体験学校々長、平成30年 3月8日)