校長日記13    
 簡易かまどで石焼いも 
 平成29年1月4日、仕事初めの日に厩舎内の倉庫の片付けを非常勤職員のみなさんにお願いした。「厩舎内」といっても生活体験学校のどこに馬小屋があるのだろうと不思議に思う人の方が多い現在である。生活体験学校で馬を飼養したのは開設直後の10年間である。つまり生活体験学校で馬の姿を見なくなって18年経つから、厩舎なんて知らないという人が多くて当たり前である。今の様子でいうならば、軽トラックの車庫に使われている大きな小屋が元の厩舎である。旧庄内町の時代に全町放送の有線設備を無線放送に切り替えた時、やや細めの電柱を全て撤去した。その電柱をもらい受けて骨組みに使って厩舎を建てた。電柱を埋め込んでする柱建てが大変な難工事だった。地盤が固くて柱を立てる穴を掘削するのが難しかったのである。現在も何かと支援してもらっている有限会社本松通信工業の全面的な応援で完成した厩舎だった。今は車庫と倉庫に使われていて、これはこれでなくては困る大切な元厩舎なのだが、整理をすればもっと有効に使える余地がある。馬の敷料に使う藁(わら)を収納するために二段に作った場所が、今となってはその段差を無くしてしまえば物置として使いやすいので棚を撤去してもらった。長年のほこりが積もり積もって大変な作業になった。もう一カ所、餅つき道具を収納している場所に隣接する物置がある。滅多に扉を開くこともないので、ほとんどの人は中に何が収納してあるのか知らない。ここも長年のほこりが積もって少し掃除をするだけでも大変な物置だった。とりあえず水でも撒かなければも使えない酷い状態である。空間の半分には丈夫な棚が作ってあった。
この棚のほこりを除くために雑巾で拭ったのだが気分が悪くなるほど埃(ほこり)がたまっていた。ここには、古い鞍が三背と腹帯が数本ほこりにまみれていた。馬の鞍はひとつふたつと数えるのではなく一背、二背と数える。一番古い鞍とポニーに使っていた小ぶりの鞍、この二つは使い物にならないので処分した。一背だけは古くなってはいるが、まだ使えるので埃を払って鞍置きにかけてしまってある。棚の一番上に小さなバケツに何かが入っているらしいので、下ろしてみると左官工事用のコテが10本近く入っていた。指定管理者を引き受けて2年近くの間に何回となくセメント張りの作業をしたが、そのたびにコテが必要になった。こんなところに多くのコテがあると分かっていれば要る時には使えたものをと少し腹立たしくもなった。誰かがこの棚にコテをしまってから、誰からも思い出してもらえないほどの長い時間が経ってしまったということである。なぜかさみしいような思いがよぎった瞬間だった。コテが出てきた棚の一番下の段に赤さびだらけの簡易かまどが2つ見つかった。何時、誰が生活体験学校に持ち込んできたものか、今の職員で知っている者はいない。私も記憶にないかまどである。それも餅つきが始まる時期にホームセンターなどで売っているブリキやアルミでできた物とは違う鋳物で作られたしっかりした簡易かまどである。運び出して大屋根の下に祝原さんが据えてくれた。祝原さんは片方のかまどの焚口に桟が無いのに気づいて、エキスパンドメタルをサンダーで切って桟をつけてくれた。これで2つとも火を焚くことができるようになった。眺めているうちに、これは何かに役立てなければいけないという思いが強まった。以前学校給食で使われていた大鍋が生活体験学校の機械類を入れてある倉庫にあることを思い出した。鋳物の簡易かまどと給食用の大鍋とくれば石焼芋が良いのではないかと話は進んだ。原君をはじめ何人かからインターネットなどの情報らしく、石焼芋作りの方法が提案された。窯と鍋の次は石をどう調達するかという話題になった。これもインターネットの情報から庭園などに使われる玉石が良かろうということになって、ホームセンターに買いに走った。10k入りの袋が600円余りで売っていたのを、3袋買ってきて鍋に石と水を入れて一度煮たてて洗ってみた。石の水を切って、芋を濡れた新聞紙で包んで更にアルミホイールで包んで焼いてみた。適当な鍋の蓋が見当たらなくてアルミの仮蓋を使った1基は、蓋の裏に結露して鍋に再び落ちて、せっかくホクホクに焼けた芋を濡らし始めたらしい。アルミの蓋を取って木の蓋に代えたら石焼芋らしく焼けたという。1月8日、事前研修に参加した子どもに試食してもらったところ、「おいしい」ということだった。しかし、釜に火をつけた初めの場面では煙の勢いが強くて、生活文化交流センターの建物中に煙がこもってしまった。交流センター2階の窓を全て開け放ってどうにか排煙にこぎつけた。火の勢いが強くなるにつれて煙は少なくなって石焼きは順調に進んだ。この時間になると芋釜は薪ストーブのような効果を発揮し始めた。吹き抜けの2階建てという寒い生活文化交流センターで暖をとる役目を果たし始めた。その顛末を篠崎和史君に話したところ、芋は何も包まずにそのまま焼いたほうが美味しいという意見だった。1月14日、体験合宿15班の初日である。この冬一番の寒気襲来という天気予報だった。だとすれば、二つの簡易かまどでストーブ代わりに暖を取り、あわせて石焼芋をやろうという意見にまとまった。この芋もおいしく焼けて成功した。1月22日(日)は、昨年の野菜作り活動に参加した親子が自主的に集まって行われたピザ焼き交流の日だった。ここでもピザ焼きに加えて石焼芋が計画された。この日は、中学1年生の藤本柊太(しゅうた)君と小学5年生の田中大輝君の二人がほとんど二人で石焼芋を出来上がらせた。おいしい石焼芋は大好評だった。ひょっとすると、石焼芋は冬の好評プログラムピザ焼きと並ぶ二大プログラムになるかもしれない。
(飯塚市庄内生活体験学校々長、平成29年 1月15日)