校長日記12    
 新屋根完成、そして、タマネギ苗 
 新屋根の完成、その目途がついたのは全職員の顔がそろった10月14日(金)のことだった。
 この日、隣接するシイタケ小屋の屋根の古トタンも張り替えた。大屋根は旧キャンプ場に作った炊飯用の大屋根への思いを重ねてつけた名称だった。新屋根は建物としては完全に独立している一回り高い屋根と広い面積を誇る新規の建屋である。先に完成した大屋根と接続しているので、知らない人が見れば、一続きに見える屋根に、わざわざ二つに分けて個別の名称を付ける必要があるかと不思議に思われるかもしれない。そこは、通学合宿誕生以来の歩みを重ねてきた高齢者のこだわりと思っていただこう。

 一連の屋根作りに大方のめどが立ったころになると新屋根のど真ん中に座っているクスノキの巨根が目障りに感じられる。クスノキの巨大な根は、あまりにも大き過ぎて、気にするなと言って済ませるレベルではない。気になるのは私一人ではない。作業にかかわっている職員のみならず全職員が気にかけている。したがって、そばに近寄った者は例外なく巨根に手を出していく。
 根起こしは二段階で進んだ。一段目は伐採時に残った直径1m弱、高さも1mはあるという根株で、二段目は末広がりの巨根起こしである。縦横に伸びた巨根は見ているだけで、この根を完全に撤去できる時期は予測がつかないと言い合うほどの根の張り具合である。弟の高志がよく使った道具は薪割りだった。力づくで巨根をバラしてしまおうという勢いである。河中さんと津山さんはチェーンソウをよく使っていた。鋸を手でひいて切った根もあった。原君も祝原さんも私も少しづつ手を出した。皆が口々に話したのは、前に自分が見た時よりも必ず誰かが手を出してくれているということだった。その分だけ根起こしは進んだ。最後の段階は10月22日(土)だった。根を完全に掘り起こした日である。この日は7回目の野菜作りの日でもあった。掘り取ってみれば、地盤が固くて直根は伸ばしきれずに横に広がるしかなかったクスノキだったことが分かった。それにしても巨根は大きかった。掘り上げて一段目も二段目も根株は農園北端のクスノキ近くに運んだ。二段目の根株は横の広がりが大きく押して運ぶのは容易ではなかった。私も少し手伝ったが、疲れて半ばで離脱した。高志と原君の二人が最後まで押し運んだ。私が参加できるような軽い仕事ではなかった。運び出しが全て終わったのは11月2日(水)のことだった。
 次はタマネギ苗について書かなければならない。10月1日(土)から2日(日)にかけて純真短期大学食物栄養学科の食育キャンプ第4班が行われた。食育キャンプというのは、食物栄養学科(定員80名)2年生を4回に分けて行う1泊2日の合宿のことである。狙いは、農業体験と共同生活体験の獲得である。第4班は4回のうちの最終回であったが、1日目はあいにくの雨であった。雨の日は畑の作業はできない。指導していただいている荻原史朗先生の発案でタマネギの種まきをすることになった。生活体験学校ではこれまでもタマネギ栽培をしてきたが、苗は購入したものを植えてきた。播種して苗を育てた経験はない。果たして、苗がうまく育ってくれるであろうかと一抹の不安はよぎったが、荻原先生の「大丈夫!育ちます!」という声に励まされて開始した。近くの種物店に行って早生、中生、晩生(わせ、なかて、おくて)の三種の種を買ってきた。早生は早めの収穫が可能で、晩生は遅めの収穫になる。中生は5月ころの収穫になり、一番多くの数の種を植えた。すでに培土は購入してあったが、播種を始めてみると種の量が準備した育苗トレー20枚分には足りないので2度買いに走った。こうして、急きょ思い立った玉ねぎの播種は終わった。育苗トレーは8穴×16穴のもので20枚あるからおよそ2500本の苗を育てることになった。播種した時期には予想しなかったことだが、後になって今年はタマネギ苗が足りないらしいことが分かってきた。荻原先生によれば、農家でさえ雨にたたられてタマネギの育苗に失敗したところが少なくないとのこと。上手に育てたのは生活体験学校ぐらいではないでしょうか?と褒められた。播種が終わって丈夫な苗に育つまでには水をやり、液肥を与えて幼い苗の加勢をしなければならない。職員全員が苗の育ちを気にかけて強風が吹くといえば避難させるなど一通りの苦労をした。なかでも原君の気配りと手配り、あれこれの塩梅が良かったので最後には丈夫な苗に育った。
 11月26日(土)は、子どもゆめ基金の助成活動の「幼児と児童のための野菜作り」活動の最終回だった。毎年、8回目の活動日にタマネギの苗を植えている。昨年も3千本ばかりを植えたように記憶している。今年も3千本には500本ばかり足りないが、行きつけの種苗店を訪ねてみたらタマネギ苗は無いという。自前の苗2500本でよしとしなければなるまい。
 純真短期大学食物栄養学科の学生が播いた種、播かれた種を育てた生活体験学校の職員、育った苗を植えた幼児と小学生、引継ぎしながら、さまざまな人々がごちゃ混ぜに登場してタマネギを育てる。やがて、新しい幼児と児童が参加してタマネギを収穫することになるだろう。純真短期大学食物栄養学科の学生も去年の1年生だった学生が2年生になって参加する。そして、収穫と調理の喜びを味わうことになるだろう。
 
(飯塚市庄内生活体験学校々長、平成28年12月5日)